NIKKA SINGLE CASK MOLT WHISKY 12年

お酒の残り香

「何になさいますか?」
「お任せでお願いします。」
出されたボトルは、NIKKA SINGLE CASK MOLT WHISKY 10年。
国産ウイスキーを頂くのは初めてで、意外でもありましたが、私には「NIKKA」というブランドへの特別な思いがあります。

わたしの父はNIKKAが好きで、食卓の棚の上には、いつもブラックニッカが置いてありました。
「これがうまいんじゃ。」と、毎晩、嬉しそうに1杯。横にチェイサーを置いて、ストレートをチビチビやっていたのを今でも懐かしく思い出します。

わたしの父は、1928年(昭和3年)生まれで、昭和天皇の終戦の玉音放送を聞いたのは17歳の時のはずです。が、父は戦争のことはあまり話したがらず、わたしがまだ幼い頃「わしは、偵察機の通信士をしとった。」とだけ言っていました。でも後年、いい年になったわたしに、ポツリと、「真面目なもんが先に行くんじゃ。上官が『行きたいものは手を挙げろ!』と言うたら、真面目な奴が我先に手を挙げて飛んで行くんじゃ。」と、父独特の言い回しではありましたが、次々に死地に飛び立っていく人たちの話をしてくれました。
17歳という若さで「次は自分の番だ」と覚悟を決めていただろう父は、そうして終戦を迎えたのでしょう。

そんな父は、「わしは(この世で)やるべきことはみなやった」「死ぬときは自分で決める」とも言っていました。そして父は2008年10月に、ほぼその言葉通りに逝ってしまいました。

「へぇ、NIKKAですか。」
10年前、NIKKAが募集した「新酒を樽ごと販売」みたいなのに応募され、何人かで購入。今回それが瓶詰されてきたのだそうです。
「5本できました。」
貴重な一杯です。
「ストレートで。」
高級なチョコレートのような甘く濃い香りと味わい。
やはり、わたしにとってNIKKAは特別なお酒です。

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